熱血!真っ向勝負男!ヒデオ #3

小説

【① 今日もまた何かが始まる】

「だるいなぁ…新しいコーチ来んかな」

グラウンドに子どもたちがダラダラと集まってくる。

保護者たちもベンチに座り、スマホをいじっている。

その中で一人、今日も高貴な姿のご婦人が立ち上がった。

「真っ向勝負様! 今日もお願いしまーーーす!」

遠くから響く、場違いな声。

「おはようございまーーーーすッッ!!」

真っ赤なジャージが太陽を反射してキラリと光る。

真っ向勝負男 ヒデオ

「また来たで…」

「今日も何かあるんやろな…」

【② ルール発表|誰も理解できない】

ヒデオはシンケンレッドの決めポーズで立ち、叫んだ。

「今日の練習にはルールがあるッ!!」

子どもたちがため息をつく。

「うぁ…また面倒くさそう」

ヒデオは構わず続ける。

「今日のルール!!」

「ミスはするな! ただしミス0は”挑戦してない”ので違反だッ!」

シーンとした空気。

一番声の大きい子、ケンタが言う。

「え? どういうこと?」

「ミスしたらアカンのに、ミスしてなかったらアカン?」

「これルール成立してんの?」

ご婦人が立ち上がった。

「素晴らしいルールですわ! 子どもたちのことを一番に考えてらっしゃる!」

ヒデオの歯茎がピンク色にキラリと光った。

ご婦人に向かって親指を立ててサムズアップした。

「ありがとうございますッ!」

【③ 挑戦の定義|シャネル降臨】

ケンタがまた聞く。

「コーチ、挑戦してるってどうやって判定するんすか?」

ヒデオは一瞬、真顔になった。

そして突然、胸の前で両手を交差させてシャネルのマークを作った。

「ココ! シャネルだ!」

ヒデオの髪が風になびく。

シャネルの5番の香りが辺りを包み込んだ。

ケンタが小さく言う。

「えぇ匂い…」

他の子たちは引いている。

「なんやねんそれ…」

ヒデオはケンタの前に立ち、叫んだ。

「挑戦とは―『翼を生やすためにどんなことでもしなさい』だ!」

ケンタが真顔で言う。

「そんなん知らんわ」

ヒデオは構わず続ける。

「つまりな、ケンタ。お前は翼が生えてない」

「そらそやろ」

ヒデオはケンタの胸を指で刺した。

「クラスで誰かが『あれつまらん』って言ったら、お前も『つまらん』って言う」

「誰かが『それダサい』って言ったら、お前も『ダサい』って言う」

「本当は別にどうでもいいのに、”周りの空気”に寄せている」

ケンタが叫ぶ。

「寄せてへんわ!」

「なら歌のお姉さんが大好きなことみんなに伝えてみろ」

「幼児向けの教育番組だからみんなにバカにされることが恥ずかしいのか?」

ケンタの顔が真っ赤になった。

「言うな!」

ヒデオは止まらない。

「家帰ったら、流行ってるゲームを”流行ってるから”始める」

「ゲームの中だけは急に強気になる。ボイチャで声低くして—」

「『はい、俺のおかげ~』『うん、君は”そういう判断”するタイプなんだね』上から目線」

「時折でてしまう語尾だけ敬語。

 『了解っす』『ナイスっす』」

「なぜなら本体が弱気だからだ」

子どもたちは完全に引いている。

「ケンタも怖っ…」

ヒデオはさらに続ける。

「勝った時だけスクショ撮る。負けた時は撮らない」

「負けた時は”味方のせい”にして心を守る」

「本音を言わない。嫌われない。傷つかない。失敗しない」

「それでは背中に翼が生えない。背中がツルツルになるだけだ」

【④ 衝撃の背中|ブツブツ北斗七星】

子どもたちが叫ぶ。

「翼なんて生えへんやろ!」

「生えるわけないやん!」

ヒデオがニヤリと笑った。

「俺の背中を見てみろ!!」

ヒデオは真っ赤なジャージを脱ぎ捨てた。

ジャージの下は何も着ていない。

日差しに照らされた背中が現れた。

「うわっ、汚っ! ブツブツめっちゃあるやん!」

「赤いのもあるし、黒いのもある!」

「気持ち悪い…ちゃんと背中洗えよ…」

ヒデオは誇らしげに胸を張った。

「ブツブツは羽が生える前兆だ!」

「挑戦を続けたこの背中には間もなくオウムのように綺麗な赤と黒の羽が生える!」

保護者たちは完全に引いている。

「あの人、病院行った方がええんちゃう…」

「汚い…」

その時。

「キャー――!! 真っ向勝負様の背中ぁーーー!!」

ご婦人が立ち上がった。

恥ずかしそうに顔を隠している。

だが指の隙間からバッチリ見ている。

「素敵! 素敵過ぎる! ブツブツが北斗七星のように輝いてる!」

「死兆星まで!」

太陽の光を反射して、ヒデオの背中のブツブツがキラキラと輝いて見える。

他の保護者たちは完全に引いている。

「あの人も大概やな…」

ヒデオはジャージを着て、胸の前でシャネルのマークを作った。

「分かったか!挑戦の判定はココ・シャネルだ!」

子どもたちが真顔で言う。

「分かりません」

「全然分からんわ」

【⑤ 爆発|炎上理論】

ヒデオは構わず叫んだ。

「とにかく練習だ!!」

ヒデオがトーキックでボールを入れる。

ケンタが強烈なキックをトラップしようとして、はじいた。

ヒデオが叫ぶ。

「ミス! ミス! ミス! ルール違反!」

さらにヒデオがボールを入れる。

誰も触りに行こうとしない。

「ミス! ミス! ミス! NO CHALLENGE!!」

練習は続く。

「ミス! ミス! ネスミス! 堂珍&ネスミス!!」

子どもたちは混乱している。

「なんやねんそれ!」

一番我慢できなくなったのは、ケンタだった。

「いい加減にしろよ!! こんなルールなんの意味があんねん!」

グラウンドが一瞬静まり返った。

子どもたちが、またや、しまった、という顔でヒデオを見る。

ヒデオが動きを止めた。

ゆっくりと振り向く。

そして、叫んだ。

「意味? あるッ!」

「ルールを守らないやつを”コーチが一発で見つける”ためだッ!」

「今日、やって分かった!ここにはルールを守れないやつがたくさんいる!」

「君たちはこれからバズりたいだけが目的でルールを破った動画を上げて炎上するだろう!」

ヒデオは正座をした

「燃やすなら、騒ぎの火より、心の火」

どこからか鹿威しししおどしの音が鳴った

その時。

なぜかご婦人が和装になっていた。

「直す必要なし! お見事! 才能あり!」

ご婦人は満足そうに頷いている。

ヒデオは特待生になった。

他の保護者たちは完全に引いている。

「いつの間に着替えたんや…」

「あの二人、もうええわ…」

【⑥ ラスト|トイレの屋根へ】

練習が終わった。

子どもたちは疲れ果てている。

ヒデオはジャージの砂を払いながら満足そうな顔をしている。

「今日も最高のチャレンジだった」

ケンタが小さく言う。

「結局、何も分からんかった…」

ヒデオは満足そうに頷き、強烈なヒールリフトでボールを高く蹴り上げた。

ボールは青空に吸い込まれ—

そのままトイレの屋根の上に乗った。

「あ」

誰かが小さく声を出した。

ヒデオは全く気にしていない。

本人だけは、今日も勝った顔をしていた。

<第3話 完>